三島由紀夫“北一輝論――“日本改造法案大綱”を中心として”より

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二・二六事件によつて青年将校に裏切られたことも、北一輝は初めから覚悟してゐたことかもしれない。日蓮宗の予言による決行日時の決定や、さまざまな神秘主義のひらめきは、フランス革命当時のジャコバン党員が、フリー・メーソンのご託宣を仰ぐためにスコットランドの本部に参詣したのと大した変りはない。革命には神秘主義がつきものであり、人間の心情の中で、あるパッションを呼び起こす最も激しい内的衝動は、同時に現実打破と現実拒否の冷厳な、ある場合には冷酷きはまる精神と同居してゐるのである。遠くチェ・ゲバラの姿を思ひ見るまでもなく、革命家は、北一輝のやうに青年将校に裏切られ、信頼する部下に裏切られなければならない。裏切られるといふことは、何かを改革しようとすることの、ほとんど楯の両面である。なぜならその革命の理想像を現実が絶えず裏切つていく過程に於て、人間の裏切りは、そのやうな現実の裏切りの一つの態様にすぎないからである。三島由紀夫“北一輝論――“日本改造法案大綱”を中心として”より

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革命は厳しいビジョンと現実との争ひであるが、その争ひの過程に身を投じた人間は、ほんたうの意味の人間の信頼と繋りといふものの夢からは、覚めてゐなければならないからである。一方では、信頼と同志的結合に生きた人間は、論理的指導と戦術的指導とを退けて、自ら最も愚かな結果に陥ることをものともせず、銃を持つて立上り、死刑場への道を真つ直ぐに歩むべきなのであつた。もし、北一輝に悲劇があるとすれば、覚めてゐたことであり、覚めてゐたことそのことが、場合によつては行動の原動力になるといふことであり、これこそ歴史と人間精神の皮肉である。そしてもし、どこかに覚めてゐる者がゐなければ、人間の最も陶酔に充ちた行動、人間の最も盲目的行動も行なはれないといふことは、文学と人間の問題について深い示唆を与へる。その覚めてゐる人間のゐる場所がどこかにあるのだ。もし、時代が嵐に包まれ、血が嵐を呼び、もし、世間全部が理性を没却したと見えるならば、それはどこかに理性が存在してゐることの、これ以上はない確かな証明でしかないのである。三島由紀夫“北一輝論――“日本改造法案大綱”を中心として”より

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月刊MOKU(モク)2014年4月1日発売号

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治安フォーラム2009年7月5日発売号

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    治安に関する情報誌。報道されない真実・情報を掲載<グラビア>日本赤軍によるクアラルンプール事件(昭和50年8月4日)松川事件(昭和24年8月17日)<the Forum>主権国家の安全保障分裂・混迷の中で「前進」も「未来」もなく彷徨する中核派/勝山次郎イスラム分派・法学派案内-正しい理解のために/花叢 賢最近における本流右翼の視点/内海京介マスメディアへ頻繁に登場する日本共産党・志位委員長(後編)/治安問題研究会【連載】ロシア諜報史(36)ロシアの北一輝/瀧澤一郎【連載24】膨脹我が国をめぐる内外の治安情勢についての情報をわかりやすく、迅速に掲載。国際テロ、不法入国・不法滞在外国人、オウム真理教、過激派、右翼、共産党、社会・労働運動、北朝鮮、ロシア、中国、諜報・スパイ、サイバーテロ、安全保障、時事問題等、時代とともに変遷する社会の

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図書新聞2011年7月23日発売号

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この投稿へのコメント

  1. salvatore forex

    三島由紀夫“北一輝論――“日本改造法案大綱”を中心として”より

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